【事実誤認】毎日新聞の『無人島の野外体験でスマホ断ち』記事に違和感 報告書の内容との乖離も

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2016年5月24日の毎日新聞の記事『スマホ断ち 「依存」小中高生向け、無人島で野外体験』にてインターネット依存症の小中高校生向けに無人島で合宿を開催することを掲載しており、その中で「2014年8月に開催された静岡県御殿場市での8泊9日の集団キャンプ」についても紹介されていますが、その内容が文部科学省の調査結果と乖離があるように見受けられます。

 

–<毎日新聞の記事抜粋>–

インターネットがやめられず依存気味の小中高校生向けに、兵庫県が瀬戸内海の無人島でスマートフォン断ちする合宿を開く。8月に自然体験施設で4泊5日過ごす計画だ。スマホに没頭して成績が下がったりトラブルに巻き込まれたりする生徒は県内でも増えており、思い切った対策が必要と判断した。

 

文部科学省がネット依存対策で進める委託事業の枠組みを使い、兵庫、秋田両県が都道府県で初めて実施する。2014年8月には国立青少年教育振興機構が、富士山のふもとの静岡県御殿場市で8泊9日の集団キャンプを試行している。ネットの使用頻度を減らすことが最終的な目標だが、「基本的な生活習慣を取り戻すきっかけに」と企画された。学生ボランティアを相談役に、トレッキングや野外での炊事のほか、参加者自身が話し合って過ごし方を決めたプログラムもあっ た。その後の使用頻度が減る効果があり、「忍耐力が向上した」「達成感を味わえた」などとする感想も寄せられた。翌年も群馬県内で実施された。

–<ここまで>–

 

記事では「使用頻度が減った」とされていますが、文部科学省が公開している資料『青少年教育施設を活用したネット依存対策研究事業 報告書』によると「ネット使用時間が短くなったことはキャンプ全体の効果として捉えられるものの、直接的効果が認められないことから、今後引き続き、プログラムの効果について検証が必要である」との結果が記載されているため毎日新聞の記事は語弊があるということになります。

 

–<報告書抜粋>–

8.事業の成果

(1)体験活動プログラムに対する感想
・中高校生の男子にとって、富士山トレッキングは、達成感を味わえるプログラムだった。
・決められたプログラムだけでなく、活動内容をみんなで決めるオリジナルプログラムは、自主性を尊重する上でよかった。
・野外炊事のプログラムを繰り返し実施したことにより、家庭で料理の時間や家事の手伝いをする時間が増え、ネットの使用時間が減った。
・富士山トレッキングやアスレチック活動をみんなで成し遂げたことで、忍耐力がついた。
・朝のつどいに参加したことによって、朝起きて朝食をとるようになった。
(2)メンターによる効果
・メンターとの関わりを通して、他のメンバーやメンターとのコミュニケーションが増えた。
・メンターとの関わりから、言動が積極的になった。
(3)キャンプ後の保護者の感想
・机に座り、勉強を1日1時間するようになった。
・挨拶ができるようになった。
・帰宅後、これまでの生活態度がガラリと変わり、学校へも毎日通学している。
・基本3食食べるようになった。
依然として長時間ネットを使用しており、特に変化は見られない。
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インターネットゲーム障害に対するチャレンジキャンプの効果研究

【要旨】

ネット依存傾向のある男性10名に対し、アクティビティプログラムと依存症治療アプローチを組み合わせたチャレンジキャンプを施行し、その結果を検証した。

ゲーム・ネットサービス利用時間は 3 ヶ月後でも有意な改善が見られ、自己効力感尺度のうち実行(実際に改善行動を起こせる感覚)も有意に改善した。

ネット依存に対してチャレンジキャンプの効果が確認できた。

また病識および迷いと推定罹病年齢との間に関連が見られ、低年齢発症ほど問題解決が困難である可能性が示唆された。

 

【はじめに】

インターネットゲーム障害 (Internet gaming disorder)はインターネットのさまざまなサービス、とりわけインターネットを介したゲーム ( 通称ネットゲーム ) へ過剰にのめり込み、その結果として身体、精神、社会的な側面に障害を生ずる疾患である。

ネット依存は近年、ますます注目を集めるようになった。

 

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本邦でもネット依存に対して久里浜医療センター(以下、当院)をはじめ、さまざまな治療アプローチが行われてきた。

しかし治療効果の検証はまだ始まったばかりであり、今後さまざまな治療アプローチに対して効果検証が必要である。

 

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【考察】

キャンプ終了後、一日あたりの利用時間、一週間の総利用時間で有意な減少をみた

チャレンジキャンプの効果が実際にネット使用時間の減少につながったものと考えられる。

利用時間調査のエンドポイントはキャンプ終了後 3 ヶ月であり、キャンプの効果が持続しているものと考えられる。

 

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研究の限界であるが、例数が 10 例と少なく、統計的な根拠は十分とは言えない。

今後、さらに例数を増やして検証する必要がある。

また参加者の多くはキャンプ終了後もゲームやネットサービスを継続しており、保護者の期待に十分に応えているとは言いがたい。

改善したのはあくまで「やればできる感覚」であり、それを実際の行動改善、例えば不登校の改善、ゲームアカウントの削除、保護者や周囲との関係改善と言ったものにつなげていくには、継続的な支援、治療が必要である。

サービス利用時間は改善しているものの、キャンプ後も平均日数は6.5日/週と、ほぼ毎日ゲーム、ネットを行っていることがうかがえる。

キャンプは変化への契機であり、「変わることができる感覚」を「変化の行動」へと移していく必要があると思われる。

–<ここまで>–

 

報告書によれば、「成果はあったものの、十分とは言えず、今後も治療・研究が必要である」という課題があります。

 

また、この報告書では「治療」を観点にしていますが、毎日新聞の記事ではその文言は一切なく、教育的な意味合いでの合宿のようにも受け取られてしまいます。

 

事実を正確に伝えるという意味で、今回の報道はそれを満たしていないと言えますね。

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